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ベテランドクターの診療事情
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第2回 パンデミック対策の具体的内容と、インフルエンザ流行時の学級閉鎖
 
関心が高まっている新型インフルエンザとパンデミック。第1回では日本のパンデミック対策に対する提言をいただきましたが、第2回ではパンデミック対策の具体的な内容に加え、新潟県教育委員会と鈴木先生の研究室とで取り組んでおられる新潟県の小中学校でのインフルエンザ流行時の措置に関する調査についてお話をうかがいます。
 
1.発熱外来 - 患者の振り分けと呼吸数チェック
国の対策には発熱外来の項目があります。しかし、発熱外来の設置場所や、そこで行うべきことの詳細は書かれていません。もし単に病院やクリニックの既存の外来を少し手直ししただけのシステムに発熱者が殺到したら、そこでインフルエンザを蔓延させてしまうでしょう。私は重症者に焦点を絞り、大きな流行では病院の病床は満杯になる可能性が大であることと併せ、既存の病院ではなく、パンデミック時には休校になる学校を活用した外来と入院施設を持つ形を提案しています。外来は体育館がよいかもしれません。ここで最初に患者を振り分けて、重症患者のみを入院ないしは病院に搬送します。大切なのは、トリアージ(識別救急。治療の優先度決定)として患者を重症かどうかを簡便に容易に見分ける指標を明快にしておくことです。

ポイントとなるのは呼吸数です。熱の高い低いだけでは、重症か軽症かの指標にはなりません。特に高齢者や乳幼児など、熱が高くなくても重症の場合もあるからです。重症の基準として、1分間の呼吸数が5歳以上なら30回以上、12ヶ月〜5歳以上:40回以上、12ヶ月未満:50回以上とWHOでも決められています。患者にもそれを日頃から啓蒙し、咳が始まったら毎日の熱と呼吸数を手帳などに必ず記入させます。発熱外来窓口に来る前に、体温、呼吸数、食欲の有無、元気のあるなし、呼吸の苦しさの有無などを記載したチェックリストを提出してもらい、外来における医師の視診を加えれば、医師は重症かそうでないかくらいは判断できます。さらには、パルス・オキシメーターにより、血液の酸素濃度を簡便に図る機械を用いて、重症度を確認します。胸部レントゲンも撮らないので、入り口で患者を長時間待たせることもないでしょう。

薬の処方も問題です。軽症の人々に対しては、主に家族などが、病院や医院の例えば午後を患者専用時間に指定するとか、ショッピングモールなどでドライブスルー式によってとかにより、薬を処方する方法も考えられます。これらにより、この段階における患者同士の接触による感染の機会を避けることができます。また、お金の支払い法も問題があります。私が思うに、国家的非常事態なのだから子供千円・大人二千円というようなシンプルな価格設定に一斉に切り替える発想もあって良いのではないでしょうか。
 
2.抗ウイルス剤の管理運用
抗ウイルス剤は治療薬として発症後48時間以内に投与することがポイントで、これで致死率の抑制になると考えられます。また、抗ウイルス剤を予防のために用いる考え方もありますが、流行期間中すべての人に、となると大量の薬が必要でお金もかかるでしょう。

第一回目で抗ウイルス剤をバランス良く備蓄する話をしましたが、病院の備蓄にも工夫が必要です。薬は年数が経つと期限が切れます。例えば毎年冬期に千人分の処方箋を出しているとします。三千人分の備蓄を確保と決めたとすれば、毎年千人使えば、三年で薬は入れ替わることになり、期限の問題は解決します。

企業では産業医をおき、危機管理として全社員とその家族の分の抗ウイルス剤を確保しておくべきです。もちろんサージカルマスクも。そして薬剤の使用に関する決まりを作り、産業医がgoサインを出したら社員が受け取れるようにする等です。ここで大切なのは、どこに備蓄し・誰が管理し・どこで受け取れるのかという管理運用方法が明快になっていることです。
 
3.ビジネス・コンティニュイティ・プラン
抗ウイルス剤の管理運用をはじめ、非常時にどうするかということは病院の院長や会社の社長などトップが決め、トップダウンで実行されるべきです。緊急営業体制に入り、業務をフルストップする等のようなことは経営に直接関係しており、管理職クラスの責任やディスカッションで決められることではありません。つまりこれはBCP-ビジネス・コンティニュイティ・プラン、非常時において経営の持続をいかに図るかという問題です。この際に、本人だけでなく家族の介護と関連して流行最盛期には職員の半分近くが、欠勤する状態があることを考えての対策とすることが大切です。

クリニックの場合も、前の薬の項目でも記しましたが、パンデミック時には通常とは異なる診察態勢になると思います。例えば午前中は風邪症状以外の緊急を要する人や慢性疾患の患者さんを診る。午後はインフルエンザ患者の処方箋をどんどんきって薬を出す、というふうに院内感染を起こさないように時間帯で患者を振り分ける。病院の場合、或る階は全てインフルエンザ患者の入院のみにし、他の階であっても慢性呼吸器疾患やガンなどハイリスク患者は特別区域として、お見舞いも特別な場合を除いて基本的に禁止にする。そうやって接触の機会が無いようにするというやり方も考えられます。これらはクリニックや病院としてのBCPです。

救急車の使用も大切です。私は、病院間の重症患者を中心とし、少なくとも家庭からの外来受診時は救急車ではなく、自家用車かタクシーでやってほしいと考えます。その場合、窓を必ず全開にして乗車員全員がサージカルマスクを付けたら車内感染の心配はないでしょう。また、インフルエンザが治った元患者さんを積極的に活用してほしい。第一波の流行時に罹った人は第二波の時には治っているから働けます。その人たちはもし再び罹ることがあっても重症にはなりにくいと思われます。
 
4.インフルエンザ発生時の学級閉鎖
ところで私の研究室では新潟県の教育委員会とのコラボレーションで、インフルエンザの伝播の仕方や流行地域などをGISという地図情報システムを使ってインターネットで公開しており(新潟大学医学部公衆衛生学教室「新潟県インフルエンザ流行GIS情報」 http://www.med.niigata-u.ac.jp/pub/flu/index.html)、新潟県全体の小中学校約900校の学級閉鎖を巡る一週間ごとの措置状況が地図とグラフで確認できるようにしています(新潟県学級閉鎖情報)。もう一つ、佐渡島(佐渡市)の94%の医師の先生方に参画していただき、佐渡におけるインフルエンザの患者数とA型かB型かもやはり地図とグラフで週ごとに公開しています(佐渡市患者発生情報)。
<新潟県学級閉鎖情報>
2006年第7週(2月13日〜17日)
<佐渡市患者発生情報>
2006年第5週(1月30日〜2月5日)
また校長先生方に学校を休校する効果についてのアンケート調査も実施したところ、休校に関してはかなりの先生が有効だとおっしゃっています。ただ具体的措置の中身を見ると学校全体を休校するという措置はほとんど無い。クラスを閉鎖する、午後から休みにする、クラブ活動を休みにするといったような措置です。しかしそれぞれの措置が本当に有効かというデータは無いんです。それを数字として出すための解析を我々はやってきました。
すると一つの傾向がはっきり見えてきました。20%の罹患率になったら「クラスを」「平日の二日間」閉鎖する措置が明らかに効いています。この平日の二日間は土日にかからないようにします。理想的には、土日を挟んでより多くの休日をとらせることが考えられます。しかし、土日は家族で出掛けたり、いろいろの生徒同士の集まりがあったりして、接触する機会が多くなり、効果が薄れます。一方、平日のクラス閉鎖なら、他クラスの子は学校に行っているわけだから、子供たちは出歩きにくいのではと思っています。今後は、土日の過ごし方を指導する大切さを強調すべきです。なお、この「クラスを平日の二日間閉鎖」という結果は、サンプルとして30〜40人の在籍生徒数のクラスを約260クラス、4年間調査して見えてきた傾向なのですが、今シーズンは、これまでの経過を整理して、有効と思われる方法を入れた介入研究として検証予定です。

現在はインフルエンザの迅速診断キットもあり、診療現場の先生方がそれぞれに早期診断と治療を行えるようになりました。しかし、お一人だけのご経験では数が限られていますし、データにまとめるというところまでいっていらっしゃらないのではと思います。多くのデータを集約し、ちゃんとした解析がなされることが大切です。最近はそれを勉強する先生方が増えてきまして、とても良いことだと思っています。
 
Doctor Profile
氏名:

鈴木 宏

 
経歴: 昭和45年 東北大学医学部卒業後、同小児科に入局。小児ウイルス感染症分野で研究を行い、乳幼児嘔吐下痢症(白色便性下痢症)がロタウイルスによることを初めて明らかにする。
  昭和60年 WHO客員研究員としてイギリス留学。
  昭和61年 WHO西太平洋地域事務局感染症対策課長(〜平成元年)としてB型肝炎、エイズ等の感染症対策に従事するなど、国際保健の道へ進む。
  平成2年 国立仙台病院に生理生化学室長として勤務。
  平成7年 WHO呼吸器感染症協力センター所長を兼務。
  平成8年2月 新潟大学大学院教授に就任(医歯学総合研究科国際感染医学講座公衆衛生学分野)。
     
現在は感染症の疫学、国際医療を主たる研究分野としており、その豊富な経験を後進の育成、国際協力に生かしたいと抱負を語る。


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