HOME > ベテランドクターの診療事情 > バックナンバー一覧 > 第1回日本のパンデミック対策への提言
パンデミックワクチンは、パンデミックが起こってからでないと作れません。新型ウイルスの株に適合するワクチンが作られるのに半年位かかるとすると 流行の第一波には間に合いません。実際のパンデミックワクチンを作るための助走としての役割を果たし得るのが「プレパンデミックワクチン」です。現在、H5N1のパンデミックに備えるため、これまでのヒトへのH5N1感染事例から分離されたウイルスを元にプレパンデミックワクチンが世界各国で開発されています。 しかしプレパンデミックワクチンがパンデミックウイルスに効く保証はありません。これは、先に述べましたように、ウイルスが変異しやすいことがあります。今作られているウイルス株が、パンデミック時のウイルス株とは異なる可能性が高く、それだけでも効果が弱まります。さらには、例年の冬のワクチンと異なり、HAを主成分とするスプリットワクチンではなく、全粒子を用いたワクチンであり、さらには抗体価を上昇させるために免疫助成剤であるアジュバントを入れる必要がありますが、日本のワクチンが十分な抗体価を生ずるかに疑問があるのです。現在日本では、備蓄しているH5N1のプレパンデミックワクチンを六千人に事前接種させる計画が実施されています。副作用への懸念もあり、またそれが起こった場合に対する補償なども定められていないまま接種させることは問題だと思います。 海外の二つの会社の製品は、抗体価が十分で、株が変化しても対応可能とされています。このように、日本のワクチン開発に関する状況は海外より優れているとは言い難い状況です。しかし、国策としてワクチンを国内自給する必要があることから、ワクチンを自国で産出すること自体は意味があります。パンデミック時には輸出入もストップしますので、ワクチンを輸入に頼っていてはいざという時大変なことになるでしょう。このような事態で日本の方針が危ぶまれる中、あくまでもオプションとしてですが、より進んだ海外産のワクチンも仕入れてみてはという動きもあります。与党PTの新しい試みかもしれませんが、これは面白いと思います。このようにワクチン開発には政治的判断が大きく関与していますが、専門家は専門家として、ワクチン対策についての学問的な意見をきちんと提言していくべきですね。
鈴木 宏